18世紀の西洋絵画に「カプリッチョ」という潮流があります。
イタリア語で奇想や気まぐれを意味するカプリッチョは、いわば「空想の景観図」。画家が空想を羽ばたかせ、各地の有名な古代遺跡や彫刻を一つの場面に描いたものです。
背景には、当時盛んに行われた「グランド・ツアー」があります。主に英国の貴族の子弟が、学んだ古典教養の知識を実際に目で見て確認するためヨーロッパ大陸を旅行したのです。
旅の思い出にカプリッチョを発注し、家に飾って楽しんだのでしょう。描かれているモチーフが何かを当てる謎解きのような要素もあったと思います。
当館ではカプリッチョの油彩画を常設で3点展示しています。
その中のユベール・ロベール作「マルクス・アウレリウス騎馬像、トラヤヌス記念柱、神殿の見える空想のローマ景観」は、ローマ市内にある彫刻や神殿を一つにまとめて描いています。
奥行きを感じさせる神殿と色々なものが並ぶ前景により、舞台のような構図になっているのが魅力。
空間の広がりを見せつつ、人間や犬のほか、植物が絡まる彫刻や遺跡を置くことで、遺物が背負っている時間的な広がりも演出しています。
もう一点のリチャード・ウィルソンによる「ティヴォリの風景(カプリッチョ)」は、ローマ郊外が舞台。
しかし、ここに描かれた古代の彫刻やお墓も別の場所にあったもの。
それが分かるような、教養のある人向けに描かれたものでしょうね。
(聞き手・小森風美)
《国立西洋美術館》 東京都台東区上野公園7の7。午前9時半~午後5時半(原則(金)(土)は8時まで。入館は30分前まで)。500円。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。
問い合わせは03・5777・8600。
主任研究員 渡辺晋輔 わたなべ・しんすけ 専門はイタリア美術。2000年から同館勤務。今年6月から国立新美術館の企画研究室長・主任研究員を併任。 |