読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

ミュシャ 堺 アルフォンス・ミュシャ館

女優を魅了したデザイン

「メディア」 1898年 リトグラフ、紙 堺市
「メディア」 1898年 リトグラフ、紙 堺市
「メディア」 1898年 リトグラフ、紙 堺市 「蛇のブレスレットと指輪」1899年 金、エナメル、オパール、ダイヤモンド 堺市

 チェコ出身のアルフォンス・ミュシャ(1860~1939)は、アールヌーボーの旗手として活躍した芸術家。当館は、ミュシャのコレクターで実業家の土居君雄氏の没後、遺族から寄贈された、ポスターや素描、油彩画、彫刻、宝飾品など、約500点を所蔵しています。

 ミュシャは、1895年にフランスの大女優サラ・ベルナールの演劇「ジスモンダ」のポスターを初めて制作。それがパリの街に貼られて人気を呼び、一気に有名になりました。この作品を気に入ったサラは、ミュシャと6年間の契約を結び、「椿姫」「トスカ」など6作の演劇ポスターが作られました。「メディア」は、ミュシャがサラのために5番目に制作したもの。ギリシャ悲劇をもとにした戯曲で、夫に裏切られたメディアが狂気の中、わが子を手にかけた場面を描いています。縦長の構図、モザイク模様が入ったタイトル、人物の背後の円形、枠から飛び出たような立体感ある描き方は、「ジスモンダ」と同じ代表的なスタイルです。

 「蛇のブレスレットと指輪」は、「メディア」のポスターの女性が左腕につけているブレスレットからミュシャが下絵を描き制作した作品。蛇のモチーフにひかれたサラが、宝飾家ジョルジュ・フーケに制作を依頼し、実際に舞台でも身につけたもの。当館にしかない貴重な作品です。

(聞き手・清水真穂実)


 《堺 アルフォンス・ミュシャ館》 大阪府堺市堺区田出井町1の2の200(TEL072・222・5533)。午前9時半~午後5時15分(入館は4時半まで)。(月)((祝)(休)の場合は翌日)休み。500円。2点は3月3日まで、企画展「サラ・ベルナールの世界展」で展示。

川口さん

学芸員 川口裕加子

 かわぐち・ゆかこ 2016年、お茶の水女子大大学院博士前期課程修了、17年より同館勤務。企画展「ミュシャと新しい芸術」を担当。

(2019年2月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 似鳥美術館 北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。

  • 太陽の森 ディマシオ美術館 フランスの幻想絵画画家として活躍しているジェラール・ディマシオ。彼が制作した縦9×横27㍍の巨大な作品が当館の目玉です。1人の作家がキャンバスに描いた油絵としては世界最大で、ギネス世界記録にも内定しています。

  • 宮川香山眞葛ミュージアム 陶芸家、初代宮川香山(1842~1916)が横浜に開いた真葛(まくず)窯は、輸出陶磁器を多く産出しました。逸品のひとつが「磁製緑釉蓮画花瓶(じせいりょくゆうはすがかびん)」です。

  • 小泉八雲記念館 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』を出版して今年で120年。『怪談』は日本の伝説や昔話を、物語として再構築した「再話文学」。外国で生まれ育った八雲が創作できたのには妻の小泉セツの存在が欠かせません。

新着コラム