読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

横浜浮世絵 神奈川県立歴史博物館

目新しい港町への好奇心

五雲亭貞秀「横浜鉄橋之図 横浜鉄橋其二」 1870年(部分)
五雲亭貞秀「横浜鉄橋之図 横浜鉄橋其二」 1870年(部分)
五雲亭貞秀「横浜鉄橋之図 横浜鉄橋其二」 1870年(部分) 一川芳員「横浜異人屋敷之図」1861年

 港町・横浜が発展したのは幕末、1859年の開港から。それまでは街道筋でもなく、主だった観光地もない小さな村でした。それが、外国船の波止場や外国人居留地が整備されて一躍脚光を浴びます。新しいまちなみや外国人の姿を紹介する「横浜浮世絵」が翌年登場し、江戸を中心に広がりました。

 そのブームは、新橋―横浜間に鉄道が開通する72年ごろまで。東京の急速な開発に人々の興味が移るまでの短い間に、約800点が描かれました。当館では400点以上を収蔵しています。

 横浜浮世絵の第一人者、五雲亭貞秀は、まちを俯瞰(ふかん)的に描いた風景画を多く残しています。特徴は、型破りのパノラマ画面。この作品は6枚続きの横長で、日本で2番目にできた鉄橋の往来を中心に描いています。

 外国人の姿や服装、暮らしぶりも関心を集めました。洋館の暮らしをのぞいてみたい、という人々の好奇心を反映したのでしょう。一川芳員(いっせんよしかず)は食事風景を細かく表現しています。パンや肉のような食事が並ぶテーブル、調理場。別室でひげそりをする姿も見られます。

 しかし実際、絵師たちが外国人と交流があったのか、定かではありません。当時の居留外国人は単身者がほとんどでしたが、浮世絵には女性や子どもが多く登場します。外国の新聞などを参考にして描いたとも言われています。

(聞き手・木谷恵吏)


 《神奈川県立歴史博物館》 横浜市中区南仲通5の60(TEL045・201・0926)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。原則(月)、12月28日~1月4日休み。300円。2点は1月5日~2月16日、常設展で。

桑山さん

学芸員 桑山童奈

 くわやま・どな 専門は近世美術。2019年4月27日~6月23日、横浜浮世絵約240点を展示する「横浜開港160年 横浜浮世絵」を担当。

(2018年12月25日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 似鳥美術館 北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。

  • 太陽の森 ディマシオ美術館 フランスの幻想絵画画家として活躍しているジェラール・ディマシオ。彼が制作した縦9×横27㍍の巨大な作品が当館の目玉です。1人の作家がキャンバスに描いた油絵としては世界最大で、ギネス世界記録にも内定しています。

  • 宮川香山眞葛ミュージアム 陶芸家、初代宮川香山(1842~1916)が横浜に開いた真葛(まくず)窯は、輸出陶磁器を多く産出しました。逸品のひとつが「磁製緑釉蓮画花瓶(じせいりょくゆうはすがかびん)」です。

  • 小泉八雲記念館 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』を出版して今年で120年。『怪談』は日本の伝説や昔話を、物語として再構築した「再話文学」。外国で生まれ育った八雲が創作できたのには妻の小泉セツの存在が欠かせません。

新着コラム