読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

フォービスム ひろしま美術館

色彩表現とことん追究

アンリ・マティス「ラ・フランス」1939年
アンリ・マティス「ラ・フランス」1939年
アンリ・マティス「ラ・フランス」1939年 ラウル・デュフィ「エプソム、ダービーの行進」1930年

 今年開館40年を迎えた当館では、フランス近代美術を中心とした所蔵品約300点から、約100点を年代順に展示しています。特に19世紀後半から20世紀初頭の名画がそろい、絵画の変革期がわかりやすいのが特徴です。

 フォービスム(野獣派)は、印象派から始まった、絵画に自由を求める潮流の中で生まれました。きっかけは、1905年に仏・パリで開かれた美術展「サロン・ドートンヌ」。展示作品を批評家が「野獣のよう」と評したことが始まりです。画家たちは大胆な筆致や原色を用い、色彩表現をとことん追究しました。

 アンリ・マティス(1869~1954)の「ラ・フランス」は同国を擬人化した油彩画。赤、白、青色のトリコロールのドレスが国旗を思わせます。描かれた39年は、第2次世界大戦開戦の年。祖国への思いや愛を表現したかったのでしょう。サラッと描いたように見えますが、色や形の調和を求め何度も描き直しています。制作しながら自分の気持ちを整理していたのかもしれませんね。

 ラウル・デュフィ(1877~1953)は、マティスに刺激を受け、色彩表現を始めました。この絵の鮮やかな色とリズミカルな筆致からは、競馬場のざわめきや人々の動きが伝わってきます。

(聞き手・秦れんな)


 《ひろしま美術館》 広島市中区基町3の2、中央公園内(TEL082・223・2530)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。特別展開催時を除く(月)((祝)(休)の場合は翌日)、12月29日~1月2日休み。入館料は企画展によって異なる。2点は常設展示。

森さん

学芸員 森静花

 もり・しずか 2013年より同館勤務。専門は西洋近代美術。パブロ・ピカソ作品の研究も行っている。

(2018年12月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 似鳥美術館 北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。

  • 太陽の森 ディマシオ美術館 フランスの幻想絵画画家として活躍しているジェラール・ディマシオ。彼が制作した縦9×横27㍍の巨大な作品が当館の目玉です。1人の作家がキャンバスに描いた油絵としては世界最大で、ギネス世界記録にも内定しています。

  • 宮川香山眞葛ミュージアム 陶芸家、初代宮川香山(1842~1916)が横浜に開いた真葛(まくず)窯は、輸出陶磁器を多く産出しました。逸品のひとつが「磁製緑釉蓮画花瓶(じせいりょくゆうはすがかびん)」です。

  • 小泉八雲記念館 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』を出版して今年で120年。『怪談』は日本の伝説や昔話を、物語として再構築した「再話文学」。外国で生まれ育った八雲が創作できたのには妻の小泉セツの存在が欠かせません。

新着コラム