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私の描くグッとムービー

北澤平祐さん(イラストレーター)
マグノリア(1999年)

全て洗い流す 優しい「カエルの雨」

 男女10人ほどの物語が複雑に絡み合う群像劇です。初めて見たときは全く意味がわかりませんでしたが、そのわからなさと、話が交ざり合う「ゲーム的なパズル感」にひかれました。公開当時、住んでいたアメリカの映画館で見て、面白いけど「何の映画なのかが謎」で劇場へ何度も通い、DVDでも見ました。カットされた場面が多いために話がつながっていない部分があることを後から知って、安心しました。

 話が進むにつれて、登場人物たちはそれぞれにっちもさっちもいかない状況へと追い込まれていくのですが、「カエルの雨」が全てを洗い流してしまう。その力技がすごく好きで、イラストにしました。闇の中に「雨」が浮かび上がる様子を表しています。

 時には全てを投げ出したくなることもありますが、「雨」が「それでいいんじゃない」と言ってくれているように感じられて、そこが好きです。ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画はどれもへんてこなのですが最終的には優しい。優しさを隠すために突拍子もないことをやっているような気がすることもあります。マグノリアでも、どの人物にもちょっとだけ救いを残して終わります。

 それぞれが過去と向き合う姿も印象的でした。私自身は良いことも悪いこともすぐ忘れる性格だからかもしれませんが、どうしようもできないことがあっても悩み続ける必要はないし、流れに身を任せるしかないときもあるよねと、この映画を通して感じました。

(聞き手・深山亜耶)

 

 
 監督・脚本ポール・トーマス・アンダーソン

 製作国=米国    

 出演ジェレミー・ブラックマン、トム・クルーズほか

 

 きたざわ・へいすけ 神奈川県生まれ。米国で16年間暮らした後、帰国。書籍の装画や洋菓子ブランド「フランセ」のパッケージなど幅広い分野で活躍。

 ▼北澤平祐さんホームページ
 https://www.hypehopewonderland.com/

 ▼北澤平祐さんX(旧Twitter)
 https://x.com/nevermindpcp

(2024年8月2日、朝日新聞夕刊掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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