読んでたのしい、当たってうれしい。

建モノがたり

多治見市モザイクタイルミュージアム(岐阜県)

産地支える土 表情豊かに

屋根には、多治見市内で特別に製造したタイルを貼った
屋根には、多治見市内で特別に製造したタイルを貼った
屋根には、多治見市内で特別に製造したタイルを貼った 4階展示室の天井の大きな穴から垂れる「タイルすだれ」は藤森さん考案。ワイヤにタイルを固定した「新しいタイルの見せ方」だ

おとぎの国の建物? アイスをはさんだビスケット? 愛くるしくも不思議なこれは何?

 古くから陶業が盛んで、大正・昭和期以降は有数のタイル産地となった岐阜県多治見市笠原町。旧町庁舎跡にタイルの博物館を建てるとなれば、全面タイル張り……ではなく、設計した藤森照信さんが着目したのはタイルの原料となる「土」だった。

 近隣には原料の粘土を採掘するため、山を垂直方向に削り取った採土場がある。「粘土山」と呼ばれるこの形をモチーフに、わらや土を混ぜたモルタルと市内の土を重ねて外壁を仕上げた。遠目にビスケットの穴のように見える部分にはタイルや古い茶わんのかけらが埋め込まれている。

 「人間にとって最も本質的な素材」である土は、「表情」がなく扱うのが難しいと藤森さんは話す。土の壁の周囲を樹木が覆う採土場の風景にならい、屋根の縁に松を植えたことで土が土らしく見えるようになったという。

 屋根に松を植える、型破りな藤森さんらしいアイデアが実現可能なのか。市職員が試行錯誤と検証の末、約100本が幅・深さ30センチほどの側溝に植えられた。床や壁だけでなく天井一面を白のモザイクタイルで埋める4階展示室についても、あまり前例のない天井タイルがはげ落ちないか事前に試したという。

 小高い丘のような敷地はもともと奥に向かって低く傾斜していたが、建物がすり鉢の底になるよう正面側を掘り下げた。「パチンコ玉のように人が吸い寄せられていく」(藤森さん)効果かどうか、年間2万5千人の目標達成ができるか危ぶんでいた来館者数は、開館した2016年度に約12万人、17年度は約18万人に伸びた。学芸員の村山閑(のどか)さんは「かつてタイルは洗面所やお風呂などに使われ、生活と密接でしたが、今は変わってしまいました。この建物が、タイルと人を出会わせてくれています」と話す。


(高木彩情、写真も)

 DATA

  設計:藤森照信
  階数:地上4階
  用途:博物館
  完成:2016年

 《最寄り》 多治見駅からバス


建モノがたり

 徒歩3分の菓子店陶勝軒(問い合わせは0572・43・3041)は、地域応援の意味を込めた「たべられるモザイクタイル」シリーズを販売する。2.5センチ角のタイルを模した「クッキー」(12個入り465円)は、色とりどりの全8種類。ほかに「こはく糖」「おまんじゅう」など。午前9時~午後6時半。原則(水)休み。

(2021年5月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

建モノがたりの新着記事

新着コラム