国内唯一の公立楽器博物館である当館は、世界の楽器を平等に展示し、楽器を通して人間の英知を感じてもらう場を目指しています。約3300点の収蔵資料から、今回はイランの楽器をご紹介します。
現在のイランでは西洋音楽も親しまれていますが、19世紀ごろに宮廷音楽家が体系化した伝統音楽や地域特有の地方音楽も盛ん。楽器店ではジャンルに関係なく楽器が一緒に並びます。
7世紀のイスラム教伝来以前からあるといわれる打楽器トンバクは、クワやクルミの木の胴体に、牛やラクダ、ヤギ、羊の皮が張られます。写真の楽器のように胴に貝殻、木、動物の骨などを用いた象眼細工が施されたものもあります。
横向きにして片ひざにのせ、両手の10本の指を駆使して演奏します。トンバクの名前は中央をたたいた音「トン」と、縁をたたいた音「バク」に由来するといわれます。音の高低の変化とトレモロ奏法が魅力で、目を閉じて聴くと一つの太鼓とは思えません。家族や親戚の集まりでは歌や踊りに合わせて伴奏を務めるくらい、子どもから大人まで幅広く親しまれています。
弦楽器のセタールはペルシャ語で「3弦」という意味ですが19世紀ごろに弦が1本増えたため現在は4弦です。これもクワやクルミが使われ金属の弦を爪ではじいて演奏します。金属質のクリスタルな音色と、イラン音楽に特有の微分音が自由に操れることが魅力です。
イランの芸術の土台には、詩の文化があります。トンバクとセタールは、詩を歌う時にも欠かせない楽器。リズムと旋律で言葉と音をつなぎます。
(聞き手・隈部恵)
《浜松市楽器博物館》 静岡県浜松市中区中央3の9の1(問い合わせは053・451・1128)。午前9時半~午後5時。800円。第2・4(水)((祝)の場合は翌日)、年末年始休み。8月は無休。
石井紗和子 いしい・さわこ 上智大国際教養学部卒業。東京芸術大大学院国際芸術創造研究科修士課程修了。2018年~19年、イランに滞在し現地の音楽文化を調査。20年から現職。 |