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私のイチオシコレクション

シュールレアリスム 横浜美術館

視線を釘付け 幻想的な世界

ルネ・マグリット「王様の美術館」 1966年
ルネ・マグリット「王様の美術館」 1966年
ルネ・マグリット「王様の美術館」 1966年 マン・レイ「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の偶然の出会いのように美しい」 1935年頃  © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2019 B0413

 平成元(1989)年開館の当館では、横浜港開港の1859年以降をテーマとし、西洋絵画、日本画、彫刻、写真、工芸など、あらゆるジャンルの美術作品1万2千点余りを所蔵しています。

 特に、1920~30年代にヨーロッパで隆盛したシュールレアリスムに関する作家ーーダリ、ジョアン・ミロ、マックス・エルンストらの作品群は自慢のコレクションです。彼らは目に見える現実を疑い、それを超えるイメージを見いだそうとしました。その中でも、現実にあるものをモチーフに幻想的な世界を描いた、ベルギーのルネ・マグリット(1898~1967)の絵画には、一瞬で視線を釘付けにする強さがあります。「王様の美術館」は、帽子姿のシルエットと背景にあるはずの景色が入れ替わっている。さらに見ていくと、人影が窓のようにも見え、その窓の向こうに広がる風景に城のようなものが見える。あれ? どうやらこの人物もどこかの城壁の際に立っているようだ、と気づく。鑑賞者の想像力が無限に広がります。

 写真作品も見てみましょう。米国の美術家マン・レイ(1890~1976)の「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘(こうもりがさ)の偶然の出会いのように美しい」のタイトルは、シュールレアリスムの考えの骨子となった詩の一節。無関係な物同士の接続によって新たな美を生み出すという思想を、直接的に表現しています。意味をなさない状況下で、本来の機能が剝奪(はくだつ)されたミシンと傘は、何か可愛い生きものにも見えてきます。

(聞き手・井上優子)


《横浜美術館》横浜市西区みなとみらい3の4の1(問い合わせは045・221・0300)。5月2日を除く木と5月7日休み。2点は6月23日までの企画展で展示。1100円。

松永さん

学芸員 松永真太郎

 まつなが・しんたろう 専門は映像、写真、西洋近代絵画。2003年より現職。18年に企画展「モネ それからの100年」を担当。

(2019年4月30日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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