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私のイチオシコレクション

富士山 静岡県立美術館

日本の象徴と西洋文化の融合

河合新蔵「富士山」1902(明治35)年ごろ 板、油彩 縦21.2×横33.4センチ
河合新蔵「富士山」1902(明治35)年ごろ 板、油彩 縦21.2×横33.4センチ
河合新蔵「富士山」1902(明治35)年ごろ 板、油彩 縦21.2×横33.4センチ 小林清親「従箱根山中冨嶽眺望」1880(明治13)年 紙、木版、色摺(ず)り 縦25×横36.8センチ

 富士山を擁する静岡県の美術館として、富士山が題材の作品約80点を所蔵。2月23日の「富士山の日」にちなんだ企画展を開催し、一部を公開しています。

 河合新蔵(1867~1936)の「富士山」は油彩スケッチです。山肌は雪に覆われ、木の葉が少ないので、冬に描いたと思われます。輪郭線の美しさや、川の水面に映り込む木々など、その完成度の高さに驚かされます。河合は小山正太郎の画塾「不同舎」で洋画を学びました。各地で写生を繰り返し身につけた、的確なデッサン力の賜物(たまもの)と言えます。

 小林清親(1847~1915)の版画「従箱根山中冨嶽眺望」の特徴は電信柱。文明開化の象徴なのでしょう。光と影を強調した「光線画」で知られる小林ですが、この作品は写実的。絵の下には「一月上旬午後三時写」と書かれ、自身の画力を示そうという意欲を感じます。

 二人の共通点は、幕末から明治への激動の時代を生きたということです。黒田清輝ら、薩長出身で国費留学できた「新派」の画家たちとは対照的に、「旧派」と揶揄(やゆ)され、自費渡米した河合。幕臣の家に生まれ、刀を絵筆に持ち替えた小林。西洋化が進む中、日本人としてどうあるべきかと葛藤していた、そんな思いが、日本の象徴とも言える富士山と、西洋の要素とを融合させた作品を生み出したのかもしれませんね。

(聞き手・下島智子)


 《静岡県立美術館》 静岡市駿河区谷田53の2(TEL054・263・5755)。午前10時~午後5時半。原則(月)休み。2作品は収蔵品展「日本の自然」(2月5日~3月31日)で展示(「従箱根山中冨嶽眺望」は2月17日まで)。300円。

泰井さん

上席学芸員 泰井良

 たいい・りょう 1996年から同館勤務。専門は日本洋画を中心とした近代美術。担当した企画展に「日本油彩画二〇〇年」など。

(2019年1月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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