読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

画家のパレット 笠間日動美術館

愛用品が物語る作家の思い

奥谷博 1995年 油彩 58×39センチ
奥谷博 1995年 油彩 58×39センチ
奥谷博 1995年 油彩 58×39センチ 鴨居玲 1984年 油彩 55×89センチ

 当館は、洋画商で日動画廊創業者の長谷川仁(1897~1976)が、ゆかりの画家から譲り受けたパレットを展示するため、72年に開館しました。東郷青児や梅原龍三郎、小磯良平ら、近現代の洋画家が愛用した約350点を収蔵。専用の展示室に半数ほどを公開しています。

 長谷川は著書の中で、「画家の手の跡や息遣いがしみこんだパレットは、近代洋画史の側面を語る重要参考品」と述べています。その形や大きさ、絵の具の配色や置き方は人それぞれ。つぶさに観察すると、制作の秘密や画家の思いに迫ることができそうです。

 多くの画家が、得意なモチーフを描き加えているのも見どころ。指穴をコップの飲み口に見立てたり、絵の具の跡を背景に風景画を描いたり。その遊び心から、画廊との親密な関係が見えます。

 油彩画家の奥谷博(84)は、未使用のパレットに鮮やかな羽子板を描きました。着物柄の緻密(ちみつ)な描写も特徴です。

 鴨居玲(1928~85)のパレットは収蔵品の中で最大級。絵の具の塊が6センチ以上に盛り上がり、濁った白や赤、青色を多用した形跡があります。当館の長谷川徳七館長(79)と親交があり、鴨居が急逝する前年に贈られました。中央に描かれた自画像は苦悶(くもん)の表情。破滅の予兆を感じさせます。

(聞き手・木谷恵吏)


 《笠間日動美術館》 茨城県笠間市笠間978の4(TEL0296・72・2160)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。原則(月)、年末年始休み。1000円。2点は、パレット館で常設展示。

西尾さん

学芸員 西尾真名

 にしお・まな 専門は近代日本美術史。主に大正期の洋画を研究。昨年から同館に勤務し、企画展などに関わる。

(2018年10月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 台東区立一葉記念館 枠外までぎっしりと。肉筆が伝える吉原周辺の子どもたちの心模様。

  • 京都国立博物館 中国・唐と日本の技術を掛け合わせた陶器「三彩蔵骨器」。世界に日本美術を体系的にアピールするため、「彫刻」として紹介された「埴輪(はにわ)」。世界との交流の中でどのようにはぐくまれてきたのでしょうか?

  • 昭和のくらし博物館  今年は「昭和100年」ですが、昭和のくらし博物館は、1951(昭和26)年に建った住宅です。私たち小泉家の住まいで、往時の家財道具ごと保存しています。主に昭和30年代から40年代半ばのくらしを感じられるようにしています。この時代は、日本人が最も幸福だったと思います。日本が戦争をしない国になり、戦後の混乱期から何とか立ち直り、明るい未来が見えてきた時代でした。

  • 国立国際美術館 既製品の中にある織物の歴史や先人の営みを参照し、吟味し、手を加えることで、誰も見たことのないような作品が生まれています。

新着コラム