似鳥美術館
北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。
当館は、洋画商で日動画廊創業者の長谷川仁(1897~1976)が、ゆかりの画家から譲り受けたパレットを展示するため、72年に開館しました。東郷青児や梅原龍三郎、小磯良平ら、近現代の洋画家が愛用した約350点を収蔵。専用の展示室に半数ほどを公開しています。
長谷川は著書の中で、「画家の手の跡や息遣いがしみこんだパレットは、近代洋画史の側面を語る重要参考品」と述べています。その形や大きさ、絵の具の配色や置き方は人それぞれ。つぶさに観察すると、制作の秘密や画家の思いに迫ることができそうです。
多くの画家が、得意なモチーフを描き加えているのも見どころ。指穴をコップの飲み口に見立てたり、絵の具の跡を背景に風景画を描いたり。その遊び心から、画廊との親密な関係が見えます。
油彩画家の奥谷博(84)は、未使用のパレットに鮮やかな羽子板を描きました。着物柄の緻密(ちみつ)な描写も特徴です。
鴨居玲(1928~85)のパレットは収蔵品の中で最大級。絵の具の塊が6センチ以上に盛り上がり、濁った白や赤、青色を多用した形跡があります。当館の長谷川徳七館長(79)と親交があり、鴨居が急逝する前年に贈られました。中央に描かれた自画像は苦悶(くもん)の表情。破滅の予兆を感じさせます。
(聞き手・木谷恵吏)
《笠間日動美術館》 茨城県笠間市笠間978の4(TEL0296・72・2160)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。原則(月)、年末年始休み。1000円。2点は、パレット館で常設展示。
学芸員 西尾真名 にしお・まな 専門は近代日本美術史。主に大正期の洋画を研究。昨年から同館に勤務し、企画展などに関わる。 |